55.
第八話 契約書完成
あの日から数日後。
家でお気に入りのカップ麺(チリトマト味)を食ってる時、俺のスマホにマキから画像付きメッセージが送られてきた。何の画像だろう。プリント?
【契約書】
その1 三人で仲良く愛し合うが、性行為は別々のタイミングで行うこと。
ブッ! ガハッ、ごほ。
せ、性行為!? いきなりそこ?
あまりにぶっ飛んだ書き出しに俺は鼻から麺を吹き出したが、以下の内容は彼女たちの真剣な気持ちがストレートに伝わる本気の契約書だった。
続きはこうだ。
その2 デートも基本的に別々のタイミングで行うこと。気持ちが盛り上がってくることあるから。そーゆー時困るじゃん?(契約その1の関係上)
その3 ハルトからのアプローチは嫉妬の原因になるので基本的に私達に任せること。ハルトは常に受け身でよし。
その4 仕事などで遅くなる時は連絡すること。メッセージ1つ送るだけでいいから。女は待たされるのが一番嫌いなのよ。
その5 誕生日は皆で祝うこと。忘れたら許さん!
その6 麻雀だけはいつでも三人同時に行って良い。あれは戦争だし。
その7 私達はハルトを必ず幸せにするからハルトもがんばること。ムリはしないまでも、少しくらいの根性は見せて欲しいぞ。
その8 私達以外を恋人にしないこと。2人もいればもう充分過ぎるでしょ。これは一生ね。
その9 年齢差のこと言うの禁止。どうやっても埋めようない内容なんだからそれ言われたら傷つくもん。
その10 私達は絶対美しいままでいます。でも、自然な姿で老いることを醜いとは言わないでね。花は散っても、緑が枯れても、それもまた自然の美なのよ。
67.ここまでのあらすじ 乾春人はスクラッチ宝くじで60万円当てたことをきっかけに新居(借家)を契約して雰囲気だけでも新婚生活にしてみようと試みる。その引っ越し作業の際に財前カオリという女性にはじめましてと挨拶されるが、どこかで見たことがあるような気がした。 【登場人物紹介】乾春人いぬいはると 主人公。この夏は怒涛の数ヶ月だった。あれよあれよという間に恋人が2人出来て、2人は喧嘩になるでもなく、片方を振るでもなく、双方と付き合うことで解決とするという。考えうる限り最も平和な三角関係が始まり、狼狽するばかり。そんな26歳。髙橋彩乃たかはしあやの あやの食堂の店主。爽やかな笑顔で食べてくれるハルトに惚れて積極的にアタック。ハルトのほうもまんざらでもなく付き合う流れになったが、それは奇妙な三角関係であった。得意料理は唐揚げ。今は離婚して独身だが、7才の娘がいる。犬飼真希いぬかいまき あやの食堂の近所でカラオケスナック的なものを経営するオーナー。あやのとは親友で、あやの食堂の手伝いもたまにしてる。マキもハルトのことが好きだということなので2人とも愛してもらうということで落ち着いた。髙橋幸太郎たかはしこうたろう『メタ』の愛称で呼ばれている中年男性。髙橋彩乃とは3度結婚したことがある(それはつまり3度離婚したということ)。かつては超一流のプロ雀士でもあったが今は色々なものを引退してあやの食堂の手伝いをしながら気ままに生きてる。娘からは割と好かれているようだ。左田純子
66.第九話 炎天下で飲むコーラ 新居を決めた俺は早速契約を結び引っ越し作業をすることにした。 作業自体は急ぐことないから業者は雇わずに自分でじわじわと物を運ぶことに。今住んでいる家を出ていくわけじゃないからな。焦る必要ない。 今日、俺は休みだ。木曜日だからあやの食堂のやってない日なのだが、あやのさんの荷物を運ぶのを手伝うということで食堂に来ていた。 季節はもう秋なのだが残暑がしつこく、現在の気温は32℃だった。風がないからもっと暑く感じる。(わざわざこんな暑い日にやらんでも。っていうわけにもいかないかー。あやのさんも俺も同時に休める日ってのは限られてるもんな) しばらくすると危ない走りをした軽トラがやってきて食堂の前にキキッ! と止まった。「あやのー! おまたせ! 借りてきたよー!」「ありがとうございますー!」 そこには軽トラの運転席から顔を出して声を上げるジュンコさんがいた。そっか、あやのさんはキッチンをなんとかしたいから運ぶものが多いんだな。そんで免許持ってるジュンコさんにレンタカー屋さんから軽トラを借りてきてもらった、と。(それはいいとして、一緒に連れてきた助手席の美人さんは誰だろう)「あやのさん、お久しぶりです。今日はお手伝いにきました」「ありがと〜。助かるわぁ」「……あの、こちらの方は?」「あー、言ってなかったっけ? 今日手伝ってもらう私の仲間よ」 その人は肩より少し下まである黒髪をなびかせてこちらへ歩いてきた。 年齢はあやのさんと同じくらいかそれより少し若いくらい……いや、女性の年齢を考える
65.第八話 俺たちの新居 宝くじを当てた日以来、中間地点の物件探しを暇があれば毎日のようにしてた。 それは俺だけじゃなくて、あやのさんもマキも各々チェックをしていた。一応、俺たちの新居っていう感じで借りるつもりだから、全員がある程度納得できる部屋がいい。ちなみに、なんでか美咲も一生懸命に検索してた。これ、おまえんちじゃないからな。 俺はできれば庭付きがいいなと思ってて。庭なしなら広めのベランダが欲しいと考えてる。なんとなく、植物育てたいなと思って。自分で育てたミニトマトとか食べたいじゃん。小さくてもいいから家庭菜園をやってみたいんだよ。 あやのさんのこだわりはキッチンの広さだった。とくに流しの大きさは気になるようで一生懸命画像を見てた。 マキはコンビニが近いかどうかを気にしてた。たしかに、近くにコンビニがあれば有り難いかもしれない。 とくに夜も働くマキにとっては一般人の生活リズムは当てはまらない。24時間開いてる店があることは重要なことなのだろう。 それぞれの理想を取り入れて探すとなるとなかなかハードルが高い。 ──数日後 今日はあやの食堂に3人集合して物件の話し合い。 もう俺は折れようかな。家庭菜園は豆苗でもやって満足すればいいか。そう諦めかけてた時だった。「あった! あったわよ! コレ、完全にみんなの理想を叶えてくれるやつ!」「本当? あやの」「本当本当! これならOKなはず!」 それは予想していた以上の好条件な上にアパートやマンションではなく一戸建てだった。外壁は赤茶色でそれもまたオシャレに思えた。「ここにしよう!」 後日、俺たち3人はこの物件を直接見に行
64.第七話 キャンベラ的な「はぁい、600300円。じゃあ気を付けて持ち帰ってね。お兄さんおめでとうございます」「ありがとうございます」 俺は当たった60万円をカバンにしまい、とりあえず銀行ATMへ向かうことにした。──── 60万円持ち歩くなんてのはソワソワしちゃうので脇目も振らずATMへと直進。真っ先に自分の銀行に入金完了。とりあえずこれで一安心だ。「いやーしっかし驚いたー。ていうか60万円その場で手渡しで貰えるんだねぇ」「100万円からは銀行手続きが必要だったはず。……しかし、本当に当たるんだな。すげぇな美咲、おい」「当たったお金、どうするの?」「うん、それなんだけど。部屋を借りようかと思ってる」「あ、つまり! 雰囲気だけでも新婚みたいな感じにするってこと? え、お兄ちゃんおうちから出てっちゃうっていうこと?」「ま、まあな……」「嫌だよう〜。それは嫌だ〜」 なんだこいつ、かわいいな。そんなに俺と離れたくないのか。「ただでさえ少ない家族なんだから人手が減るのは困るよお」 違った。そりゃそうか。「んー、でもなあ。麻雀食堂までここからだとけっこう遠いからなー」「あ、分かった。それならさ、あやのさん達の所とウチのそのちょうど中間地点に当たるとこにお兄ちゃんの部屋を借りればいいんじゃない?」「中間地点だとそれまたド田舎になるけどな。まあいっか。キャンベラ※的な。うん、そうしよう」※オーストラリアの首都『キャン
63.第六話 美咲の強運 俺はその日家の近くのスーパーにある宝くじ売り場にいた。 何か大当たりしたら買いたいものがあるとか、そういう目的があったわけではないが1枚300円のスクラッチくじを3枚買ってみた。別になんとなくだ。そういう時ってあるだろ? まあ、購入の理由は全く無いわけじゃないが。というのも今回のスクラッチくじが『麻雀スクラッチ』というくじだったから。どんだけ麻雀好きなんだよ。 宝くじを買うのは3枚くらいがいいんだ。4枚買おうとすると1000円超えてしまうから。それはちょっと使いすぎな気がする。遊びなんだから、こんなのは。(この10円玉で削るのが楽しいんだよな。童心に帰れるというか。昔の雑誌の付録で遊んでるみたいで) 俺は削る前に裏面に書いてあることを読んだ。どうせならどれが大当たりかとか理解してから楽しみたい。(ええと、なになに赤伍萬が3つ暗刻ると大当たり120万円。赤⑤筒3つだと2等30万円。赤5索3つだと3等10万円。4等から7等は東南西北の順ね。これ企画したやつ相当麻雀好きだな。三元牌とかじゃなくて赤牌を1等にもってくるのは本物の雀士の感覚じゃん!) まず1つ目を削る。カリカリカリカリ西西(お、いきなりリーチ? 6等1000円) こういうのは金額の問題以前に『当たりそう』ということだけでワクワクする。 さあ、1000円は当たるのか? 最後の1マスを削る。カリカリカリカリ中「ちゅん! ブハッ!」
62.第伍話 新人教育 髙橋彩乃はヤキモキしていた。原因はもちろん乾春人である。(ハルト君からメッセージこないなー。昨日は私から『おやすみ』のメッセージ入れたんだから今日は先にあっちからメッセージ送ってきたりしてくれないかなー。『おはよう』だけでもいいのにな)と思っていたが、ふと思い出した。そうだ、契約その3だ!その3 ハルトからのアプローチは嫉妬の原因になるので基本的にハルトは受け身で。と書いた。(そうか、ハルト君は受け身にならなきゃいけないからそれを忠実に守ってるんだ、きっとそうだ) それなら仕方ない。という事にすぐ気付けて良かった。朝っぱらからいつまでも連絡を待ってヤキモキするとこだった。 お昼休みあたりでまた私からメッセージでも送っておこう。『こんにちは』だけでもいいわけだし。(……そっかー。ハルト君が契約書の通りにしてるってことは、なんか「好きです!」とか「付き合って下さい!」みたいな青春イベントは無いまんま私たちの付き合いは既に始まったんだ……。なんか、え? もうこれ始まったの? て感じね。まあ、青春イベントを求めるような年齢ではないわけだけど。……でも、ハルト君はどうなのかしら。こんな始まり方の付き合いでいいのかなー)◆◇◆◇ 一方、ハルトは特に気にしておらず。契約書に書いてある三人のルールを守ることだけ注意していた。 気にするしないとかよりハルトは仕事で忙しかったのだ。 (はー、新人教育って初めてやるけどかなり大変だな。しかも女子っていうのがまたな。同性にやらせてくれよと思う所だが、まあ、うちの会社は女性社員が極端に少ないからな。1人だけ適任な人はいるにはいるけど、今は産休ときてる。